中学の卒業アルバムより。活発にも見える

「昔はかわいい顔でしたよ」

 と、容疑者と同級生の孫を持つ女性はつぶやくように言った。

「いい子だった」

 神奈川県座間市の2階建てアパートの一室で男女計9人の切断遺体が見つかったのは10月31日のこと。警視庁捜査一課は同日、うち1人の遺体を遺棄したとして、この部屋に住む職業不詳・白石隆浩容疑者(27)を死体遺棄の疑いで逮捕し、11月1日に東京地検立川支部に送検した。

 白石容疑者は「9人全員を殺害した」などと供述しており、室内のクーラーボックスなどに隠していた頭部などを除き、刃物で削いだ肉片はゴミ袋に入れて捨てたとしている。ツイッターで自殺願望者に言葉巧みに近づき、自室に連れ込む手口だった。レイプ目的と所持金を奪う狙いがあったなどと供述している。

容疑者宅近くのゴミ収集所にはコンビニ袋に入れたゴミが……

 冒頭の女性は、事件現場から約2キロ離れた白石容疑者の実家近くに住み、ポツリ、ポツリと同容疑者の印象を話す。

「テレビのニュースなどで報じられているほど実物は悪い顔をしていないよ。実家に戻ってきたときは私にも挨拶してくれる。“きょうもお出かけ?”なんて声をかけられたこともあった」(同・女性)

 ジキル博士とハイド氏─。イギリスの小説家R・L・スティーブンソンの代表作で、人格者のジキル博士と凶悪で道徳心のないハイド氏という2つの顔をもつ男の話だ。白石容疑者は子どものころから善悪の二面性を使い分けていた可能性がある。

 両親と妹の4人家族。一戸建て住宅に暮らし、父親は大手自動車メーカーの仕事をしていた。同容疑者の実家近くに住む男性は言う。

「いい子でしたよ。そりゃもう、小さいときから知っていますからね。賢い子でね。ちゃんと挨拶してくれるし、今回の事件はビックリです」

同級生の母「不思議なことがあるんです」

 少年時代の白石容疑者は記憶に残るタイプではなかった。凡庸だったといっていい。地元の公立小・中学校を卒業後、県立高校に進学。友達がいないわけではないが、目立つことはなかった。実家周辺の50代主婦が振り返る。

「うちの息子は年が近くて小学生のときは一緒に集団登校していたんです。私も登校に付き添うことがありましたが、白石君は手もかからないし、おとなしい子という印象でした。まじめでね。

 妹さんの面倒をしっかりみる“いいお兄ちゃん”でもありました。こうして事件になると、なんで気づいてあげられなかったのかと思う。普通の子どもこそ注意深く気にしてあげるべきだったのかもしれません」

 しかし、別の主婦は……。

中学の卒業文集の作文は、ほかの生徒の半分くらいの文量だった

「小学校の集団登校で、白石君は登校班の集合場所に遅刻してきたり、学年が下の子の面倒を全然見なかったそうです。娘がそう話していました」

 大人が付き添っているときにはいい顔をして、子どもだけのときはいいかげんな裏の顔を見せていたのか。

 中学時代の同級生の母親は「不思議なことがあるんです」と話す。

「彼(白石容疑者)はまず野球部に入り、2年生のときに陸上部に入り直している。そのころは野球部、サッカー部、バレー部が人気で部員も多かった。卒業文集の彼の作文を読んだら、部活のことばかり書いてあって、そうか、部活を頑張っていた子なのかと一瞬、思っちゃったんですけど、野球部の集合写真にも陸上部の集合写真にも彼の姿がないんですよ

 白石容疑者の作文のタイトルは「僕と部活」。友達や練習の楽しい思い出ができたほか、身体も強くなったと書いている。《ひたすら部活をがんばっていた気がします》とする記述も。

 前出の50代主婦は「幼稚園と小学校ではサッカーをやっていた。しかし、中学の陸上部は幽霊部員だったのではないか」と話す。

 事実ならば、ほとんどの同級生が読む卒業文集によくデタラメを書けたものである。

 実像はどうだったのか。

 前出の同級生の母親は、

「息子の話では、根暗っぽくもなく、といって目立つわけでもなかったって」

 と明かした。

外面はよかった

 言動と行動はその後も噛み合わない。中学で身体を鍛えたはずなのに、高校では部活動をせず、地元のスーパーでアルバイトに精を出したという。高校卒業後、バイト先のスーパーの正社員に採用されたが約2年3か月で退職。パチンコ店従業員や新宿・歌舞伎町の風俗店スカウトマンなど職を転々とした。母親と妹が数年前に家を出たため、実家に顔を見せるようになった。

 社会に出てからも外面のよさだけは変わらなかった。

 今年4月から5月末まで、派遣スタッフとして倉庫作業員をしていたときの同僚女性(23)が振り返る。

「実年齢より若く見えました。礼儀正しく、挨拶ができ、物腰の柔らかい好青年でした。仕事をすぐ覚え、テキパキと働いていました。長く勤めていたら、もっといろんなことができただろうなと思ったほどです。口数は少なく、誰かと親しくすることはありませんでした。風俗店のスカウトをしていたなんて面接担当者も知らなかったようです」

 勤務時間は午前9時から午後6時まで、週4、5日は働いていた。派遣先の責任者は、

「ひとりで黙々とやる作業ですし、彼についての記憶はあまりない。仕事上のトラブルはありませんでした。本人事由の退職でした」と語る。

 白石容疑者には逮捕歴があった。昨年夏に売春させると知りながら茨城県内の風俗店に女性を紹介したとして、今年初めに職業安定法違反の疑いなどで同県警に逮捕され、5月29日に執行猶予つき有罪判決を受けた。倉庫作業員を辞めたのはこの直後だ。

 スカウトマンとしての評判はすこぶる悪い。約1年前、風俗店に紹介した女性の給料約200万円をネコババしようとしたほか、SNS上には、

白石容疑者を危険視するツイート

《新宿にいる白石というやつに注意してください!極悪スカウトです!》

 などと顔写真つきで“指名手配”する投稿がある。

 歌舞伎町でスカウトをしている男性によると、「白石はあまり話さない存在感のない男だった」という。

「“売り風俗(違法売春)”専門。女の子に対しては常に受け身で、マメでやさしく、身内のように心の中に入り込んでいく」(同スカウト)

 しかし、歌舞伎町の雑踏に立つスカウトマンに片っ端から聞くと、ほとんどは白石容疑者を「知らない」と言う。SNS上でもスカウトしていたためかもしれない。

 妙な噂話も流れている。

「白石は臓器売買をしていたって噂がある。そっちのスジの人から聞きましたけど、マジでやばいっすよ」

 と面白おかしく話すスカウトマンもいた。技能や売買ルートなど大がかりな組織もなく、できるはずがない。

遺体の様子

 警視庁によると、2体は死後約1~2週間で、7体は同1か月~数か月という。遺体の身元確認が進められている。

 容疑者宅からは血のついたノコギリ、キリ、キッチンばさみ、包丁2本と、ロープ、結束バンドが押収されている。残された遺体の一部の状態は……。

事件現場の部屋の見取り図 イラスト/スヤマミヅホ

頭部の切断面はすべて水平。第2頸椎で切断されたものが5体、第3頸椎から切断されたものが2体、不明が2体だった。骨は肋骨などで背骨はない。腰の骨などとみられていたのは乾燥した内臓だった。小腸が2つ、肝臓のようなものが2つ、脾臓または腎臓と思われるものが1つなどだった」(全国紙社会部記者)

 斬首男のおぞましい手口。

 ネットと自殺問題に詳しいジャーナリストの渋井哲也氏は「自殺をキーワードにするツイッターのコミュニティーは狙われやすい」と指摘する。

「一部のネットナンパ師は、自殺願望者はレイプされても警察に届け出ないだろうと考えている。悪意を悟られないように“あなたの気持ちはわかりますよ”と共感する言葉で近づく。複数のアカウントを持つ白石容疑者は、自殺願望の当事者になりきって弱さを見せたり、別のアカウントでは確実に死ねる情報を持つ人物だとアピールしていた」

 ジキルとハイドの少年は、ハイドに完全支配された。